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知識・Tips
2026年10月02日
約90年の歴史を持つ「ポリアミド(PA, ナイロン)」~高い強度と耐性で産業を支えるエンプラに~
「ナイロン」と聞くと、衣類や繊維をイメージされる方も多いかもしれませんが、実はエンプラとしても広く活用されています。生み出されてから約90年の歴史があるナイロンはプラスチックとして最高クラスの強度や耐性を持ち、現在も産業や私たちの生活に深く関わっています。今回は、ポリアミド(ナイロン)について、その強みや特徴を紐解いていきます。
世界初のエンプラであり、世界初の完全合成繊維
ポリアミド(Polyamide)はその名の通り、分子中にアミド結合(–CONH–)を繰り返し単位としてもつ高分子材料(ポリマー)です。5大エンプラの中でも最も歴史のある材料であり、世界で初めて生み出された完全合成繊維として知られています。最大の特徴はアミド結合に含まれる水素原子(H)と酸素原子(O)が水素結合を形成していることです。水素結合によりポリアミド同士が強固につながり、「高強度」「耐摩耗性」「耐熱性」といった優れた材料特性を生んでいます。また、分子鎖が規則正しく並びやすいため結晶化度が高く寸法安定性にも優れており、電気・電子機器、産業機械、衣料用繊維など幅広い分野で不可欠な材料となっています。
人工絹・綿をめざして生み出されたナイロン66
ポリアミドの中でも、代表的な材料として知られているのがナイロン66です。開発の背景にあったのは、1920年代後半のアメリカにおける、絹や綿に代わる合成繊維に対する需要の高まりでした。「高分子」という概念すら十分に広まっていない状況の中で、開発に取り組んだのがデュポン社です。W.H.カロザース氏を中心とした研究グループは数百種類以上の実験条件を検討し、その結果、1935年にヘキサメチレンジアミンとアジピン酸からポリアミドを得ることに成功しました。それぞれの原料が炭素数6個であることからナイロン66と名付けられたこの材料は天然絹を超える性能を持つことが確認され、「石炭(石油)と空気と水より作られ、くもの糸のように細く、鋼鉄のように強い繊維」 と称されました。「ナイロン」という名称は、もともとデュポン社の登録商標でしたが、現在ではポリアミドの一般的な総称として世界中で広く使われています。1930年代後半には歯ブラシや女性用ストッキングの材料として用いられるようになったナイロン66は、第二次世界大戦においてはパラシュートやテント、ロープといった軍事用品にも展開され、繊維材料としての地位を着々と確立していきました。
衣類からエンプラへ。広がるナイロン66の活躍のフィールド
繊維として衣類の生産拡大・普及に貢献したナイロン66ですが、射出成形技術の進歩に伴い、1950年頃から機械部品材料としての活用にも目が向けられるようになりました。100℃以上の耐熱性、50MPa以上の強度、2400MPa以上の曲げ弾性率という性質を持つプラスチックがエンジニアリングプラスチックとされていますが、ナイロン66は融点260〜265℃、強度は80MPa以上、曲げ弾性率は2800MPaであり、要件を満たします。さらに、用途に応じてガラスやラバーを加えて改質することが可能であり、ガラス繊維を複合化することで強度は200MPa程度、曲げ弾性率は10000MPa程度まで向上します。さまざまな優れた特性を持つ一方で、水素結合に起因する吸湿性には注意が必要です。ポリアミドは水を吸収しやすく、それに伴い柔軟性や靱性が向上しますが、同時に寸法の変化や剛性・絶縁性の低下をもたらすため、精密部品・電子部品においては対策が求められます。また、耐薬品性が高いため接着が難しく、エポキシ系などの適した接着剤を選定することが重要です。
| 機械強度 | アミド結合間の水素結合により、高い引張強度、曲げ強度、耐衝撃性を発現するため、荷重がかかる部品にも適用できる。 |
| 耐熱性 | 融点が約260~265 ℃と高く、自動車のエンジンルーム内など比較的高温の環境でも性能を維持することが可能。 |
| 耐摩耗性・自己潤滑性 | 摩擦係数が比較的小さく、摩耗しにくいことから、摺動部品に適している。また、潤滑剤を使用しにくい場所でも使用できる。 |
| 耐薬品性 | 油脂や有機溶剤に対する耐性が高く、多くの工業環境で安定した性能を維持できる。一方、強酸や強アルカリには分解されやすい。 |
| 絶縁性 | 乾燥状態では優れた電気絶縁性を示すため、電気・電子部品に多く使用される。 |
| 軽量 | 金属に比べて密度が小さいため、自動車や機械装置の軽量化に寄与する。省エネルギーや燃費向上の要求に応える金属代替材料として重要な特性。 |
性能に特色ある、ナイロン66の仲間たち
前述の通り、ナイロン66という名称は原料の炭素数に由来します。例えば、アジピン酸(炭素数6)の代わりにセバシン酸(炭素数10)を用いて製造されるナイロンはナイロン610と呼ばれ、ナイロン66よりも低い吸水性を有します。また、セバシン酸はひまし油を原料とすることから、製造における環境負荷が低いことも特徴です。他にも、寸法安定性に優れたナイロン12や、さらに高い耐熱性を有するナイロン46、低コストで着色しやすいナイロン6といった種類があり、用途やコストに応じて選定されています。その中でもナイロン66は強度・耐熱性・耐摩耗性といった性質のバランスが非常に高く、射出成形で量産した場合でも、品質のばらつきが少ないことから、高精度部品の原料として評価を得ています。
優れた性質で、さまざまな製品を陰から支えるナイロン66
ナイロン66は幅広い分野・産業で活用されており、特に軽量さと強度が求められるシーンでその性能を発揮します。ここでは、代表的な用途について紹介します。
<自動車分野>
車体の軽量化による低燃費化が非常に重要な課題となっている自動車製造において、金属部品のプラスチックへの置き換えが1970年代から取り組まれてきました。 ナイロン66は軽量であることに加えて高い耐熱性・耐薬品性を持つことから、主に高温になりがちなエンジン周りの構造体部品(エンジンカバー、インテークマニホールド、ラジエータタンクなど)に展開されています。車体としての強度も重要であるため、ガラス繊維が複合されることも多くあります。

<電気電子部品分野>
耐熱性の高さに加えて靱性の高さ、絶縁性を生かして、電気電子製品の内部部品(コネクタ、ブレーカー、リレーケース、スイッチ部品など)に用いられています。発火や延焼を防ぐ必要がある場合には、難燃剤の配合により改質が行われます。
<機械部品・一般用途分野>
歯車、軸受、ローラー、滑車、チェーンガイドといった、摩耗や衝撃を受ける部品に使用されています。自己潤滑性を有するため、潤滑油を使用しない環境でも性能を発揮します。身近なところでは、結束バンドや椅子のキャスター部分にも用いられています。




さらなる研究・開発で、持続可能性も備えたエンプラへ
他のプラスチックと同様に、ナイロン66も製造における環境負荷の低減やリサイクル性の向上といった改良が進められています。原料となるアジピン酸やヘキサメチレンジアミンはベンゼンなどの化石燃料から得られてきましたが、近年は植物や廃棄物由来のバイオマス原料への展開が進められています。すでにセルロースやでんぷん(キャッサバイモ)の残渣から得られたアジピン酸を用いたナイロン66の製造法も見出されています。また、使用後のナイロン66部品をアジピン酸とヘキサメチレンジアミンに分解して再度原料として利用できるようにするケミカルリサイクル技術の開発も取り組まれています。高い性能で私たちの生活を支えてきたナイロン66は、持続可能性も備えたプラスチックとして、さらなる活躍が期待されます。
<参考文献>
- 野﨑雅裕, ”6,6-ナイロン:製造法,プラスチック用途への展開”, 化学と教育, 59巻12号(2011).
- 古川安, “カローザースとナイロン 伝説再考”, 化学と教育, 55巻6号(2007).
- 井上俊英, 小林和彦,”ポリアミド樹脂の現状と開発動向”, 高分子, 46巻 8月号(1997).
- 安田武夫, “エンプラの性能設計”, 高分子, 39巻 2月号(1990).
- 大山一, “汎用エンプラ:自動車等で使用されるプラスチック”, 化学と教育, 46巻 11号(1998).
- 石田敏和, “エンジニアリングプラスチックをとりまく環境と加工技術”, 成形加工, 7巻 12号(1995).
- 「安価なバイオマス資源からアジピン酸類を効率的に取得する技術でバイオマス由来のプラスチック製造を効率化」 https://wakasapo.nedo.go.jp/seeds/seeds-0266/
- 「旭化成とマイクロ波化学、マイクロ波を用いたポリアミド66のケミカルリサイクルの共同実証試験を開始」 https://mwcc.jp/news/2536/ (2023/4/27)
- 「100%バイオベースナイロン66の製造技術を確立」https://www.toray.co.jp/news/article.html?contentId=r6zl7bud (2026/5/28)
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