ものづくり 2025年04月02日

セメダインもお世話になっています!力を測定する装置を作る会社は、有名ミュージシャン御用達の製品も作る。

 工業製品の製造、開発現場では、様々な計測機や試験機が用いられます。製品の品質を保ち、より良い製品を作るためには、それらの装置を用いて材料の状態や、性能を数値で正確に確認しなければなりません。セメダインでも数多くの計測機や試験機を用いて製造、開発を行っています。
接着剤で貼り合わせた金属板を引っ張って剥がす試験(引張せん断接着強さ試験)の様子
数多くある接着剤の性能試験の項目の中に、接着強度を測定する試験があります。試験では、接着剤で貼り合わせた材料に対して様々な方向に向かって負荷をかけ、どのぐらいの負荷で剥がれるかを計測します。そのために使われる装置の一つが万能材料試験機です。
 
今回は、万能材料試験機を製造、開発している会社に行って、仕組みや試験方法などを聞いてきました。合わせて、セメダイン史上最強レベルと言われる新型高強度接着剤で固定した試験片の接着強度の測定も行っています。
 
普段見ることが無いような機械を作っている会社ですが、実は多くの方が一度はお世話になっているような装置や、有名ミュージシャン御用達の製品なども作っている会社でした。そちらもレポートしていきます。

力を数値化して見えるようにしてくれる装置を作る会社

  今回訪問したのは、万能材料試験機や電子計測器、産業用重量計、電子天びん、半導体関連装置、医療用電子機器などの開発、製造を行う株式会社エー・アンド・デイです。工業用の秤では60%以上のシェアを持つ世界的な企業であり、工業向けを中心に各種製品を取り扱っています。
左が上田さん、右が太田さん。
対応いただいたのは、販売促進部の太田さんと上田さん。ありがとうございます。
マイクロ電子天びん
エー・アンド・デイの社名は、アナログのAとデジタルのDが元になっています。アナログとデジタルとの変換技術を原点として、計測、計量するための様々な「はかる」装置を開発してきました。
 
その技術により開発されたものが、例えば写真の電子天びんです。質量によるわずかな物理的変化を電気信号に変換することにより、100万分の1gからの高精度計量が行えます。測定部分が電子化されることで機械的な構造が減り、装置が小型化されて価格も下がります。
 
化学、バイオ、製薬、医療など、非常に精密な計量が求められる分野では、エー・アンド・デイの製品が広く使われています。
テンシロン万能材料試験機(画像提供 株式会社エー・アンド・デイ)
接着強度の試験に用いられる万能材料試験機も アナログとデジタルとの変換技術により開発されたものです。万能材料試験機では、取り付けられた試験用の材料に対して、引張りや圧縮、曲げ、ねじりなどの負荷を一定の大きさ、速さでかけることができます。材料にかかっている負荷の大きさを電気的な信号に変えて計測し、材料の強度や弾性、耐久性などの特性を数値やグラフで表示します。
ロードセルの一例
万能材料試験機で負荷の大きさを電気信号に変換しているものがロードセルです。ロードセルは万能材料試験機だけでなく、家庭で使われているような、数キログラム程度の計測用のキッチンスケールや、路面に設置された数十トンのトラックの重さを計測する重量計など、様々な場所で用いられています。
エー・アンド・デイでは、目的や用途、使用場所に合わせて様々なタイプのロードセルを製造しています。
ロードセルに用いられる負荷を検出するための金属部品(起歪体)
ロードセルの内部には負荷を検出するための金属部品(起歪体)が入っています。金属部品には測定する力の方向にあわせて各種の形状があります。金属部品に負荷(重量)をかけることで発生するわずかな変形(ひずみ)を検出して電気信号にかえることで、負荷の大きさが数値化されます。
エー・アンド・デイ社が製造しているストレインゲージの一例
金属部品の変形量の検出に用いられるのがストレインゲージ(ひずみゲージ)です。ストレインゲージは、変形量に応じて電気抵抗が変化するセンサーです。薄く、小さいセンサーで、金属部品に貼り付けて使用します。
ストレインゲージの原理
 ストレインゲージに電圧をかけた状態で負荷の大きさが変化すれば、金属部品の変形に応じて電気抵抗が変化して出力される電圧が変わり、電気信号として検出されます。ロードセルは、このような原理で負荷を電気信号に変えて計測しています。
(ロードセルには、ストレインゲージを使わない別の方式もありますが、ストレインゲージを使う物が一般的です。)
6分力センサーの起歪体
また、ロードセルの技術を応用すると、複雑に大きさや方向が変化する力を計測できるセンサーを作ることもできます。例えば、XYZの3方向の軸と、各軸の回転方向の力の変化を電気信号としてとらえることができる、6分力センサーでは、上の写真のような金属部品にストレインゲージを貼り付けて力の変化を計測しています。
6分力センサーの取り付けイメージ
 このようなセンサーは、テスト走行用自動車のタイヤホイールに取り付けて、路面を走行した際の車軸にかかる力の変化を計測するようなシステムに用いられています。
6分力センサーを取り付けて実際に走行テストを行っている様子。(画像提供 株式会社エー・アンド・デイ)
この他にも、エー・アンド・デイでは、各種センサー、測定機を組み合わせ、自動車メーカーやタイヤメーカーなどに向けた計測システムを、各社の要望に合わせて開発、製造しています。
タイヤの性能を測定する装置の模型
ロードセルについては、エー・アンド・デイのホームページに詳しい解説があるので、もっと深く知りたい方はそちらをご覧ください。
 
株式会社エー・アンド・デイ ロードセル技術資料シリーズ : ロードセル入門

工業向けだけじゃない!有名ミュージシャンが推す製品も作る会社。

 エー・アンド・デイでは、電子天びんや万能材料試験機、6分力センサーといった、一般の人が見たり触ったりすることがほぼ無い製品の取り扱いが多いですが、多くの人が一度は目にした、またはお世話になったことがあるような製品も製造しています。
 
万能材料試験機による新型高強度接着剤で固定した試験片の測定をレポートする前に、そちらも幾つか紹介しておきます。
 
まずはこちら。

全自動血圧計
全自動血圧計です。健康診断時にお世話になった方も多いと思います。公共施設に置いてあるものを利用した方もいるのではないでしょうか?どのメーカーの血圧計を使っているか意識して見ていることは少ないとは思いますが、次回機会があったら見てください。エー・アンド・デイの製品かもしれません。
ワイヤレスデータ送信ができる血圧計
ワイヤレスでスマートフォンやタブレットへ自動的にデータを送信できるタイプの、小型の血圧計も製造しているそうです。血圧が気になる方はこちらで計測してスマホで管理するのもいいかもしれません。
スマートフォン対応体組成計
ワイヤレスで通信してデータをスマートフォンで管理できるものでは、体組成計も製造しています。日々の健康管理には良さそうです。
 
ちなみに、測定機では、データ取り出しのワイヤレス対応が進んでいるそうです。先ほどの自動車に搭載するような計測機では再実験が難しいため、データをワイヤレスで受信しながら残すことは少ないそうですが、保存されたデータの取り出しに関してはワイヤレス化が進んでいます。
非接触温度計、熱中症指数計各種
健康管理に関しては、非接触温度計や熱中症指数計なども製造しています。
 
非接触温度計はコロナ禍の際にかなりの数が出たそうです。また、近年の夏の猛暑の関係で、熱中症指数計も売れているのだとか。今年の夏は、外で作業していて危険を感じたことがあったので、1つ欲しくなりました。
超音波温熱吸入器
こちらは、約43度、5μmの霧による「吸入療法」を行う装置です。のどや鼻を優しく温め潤します。生理食塩水も使用可能な優れモノ。
LiSAさんのサイン入り超音波温熱吸入器
こちらの商品は、アニメ「鬼滅の刃」の主題歌「紅蓮華」を歌う歌手のLiSAさんが、これで日常的に喉をケアしていると、SNSで推していたそうです。そこで、エー・アンド・デイの広報誌に出てもらうことを依頼したところ、快諾してくれました。その時のサインがこちらのものです。
広報誌に掲載されたインタビューの様子はこちらで読むことができます。
 
他にも、歩数計やキッチンスケールといった一般向けの製品があり、家に置いてあるそれらの商品は、もしかするとエー・アンド・デイの製品かもしれません。
普通でははかれないものを、はかれるようにするエー・アンド・デイですが、実は普段はかっているものや、普段の健康管理にも関わっているのです。
 

万能材料試験機でセメダイン史上最強レベルの接着剤の強度を測定する

それでは、最後にセメダイン史上最強レベルと言われる新型高強度接着剤で固定した試験片の接着強度の測定の様子をお伝えします。
 
最初に結果を言ってしまうと、 「新型高強度接着剤は、金属の試験片が引きちぎれるほど強く接着できる」でした。

左がセメダインの宇野。右がエー・アンド・デイの村上さん。
接着強度の測定にあたり、セメダインからは、エー・アンド・デイの万能材料試験機を開発業務で使用している研究開発部の宇野が立ち会いました。測定の対応をしていただいたのは、エー・アンド・デイの開発本部の村上さんです。ありがとうございます。
開発者同士、技術的な話を交わしながら試験が進んでいきます。
試験片。1.6mm厚のSPCC材。
 今回試験を行ったのは、金属製の板を幅25㎜、長さ25mmの範囲で、セメダインの新型高強度接着剤で固定したものです。この板の両側を万能材料試験機に固定して、長さ方向に引っ張ります。
引張せん断接着強さ試験の引張り方向
 引張る方向を図にするとこのような感じです。接着剤の試験方法に関しては、JISで決められています。JIS規格の番号、試験方法に関してはこちらにリストがあるので、興味のあるかたはご覧ください。
 
セメダイン株式会社:試験方法と関連JIS
 
 引張せん断接着強さ試験に使用するのが、エー・アンド・デイの万能材料試験機「テンシロン」です。材料試験機のことを「テンシロン」と言う人がいるほどのメジャーな装置です。世界最高レベルの高精度、高速サンプリング性能を持ち、多様な試験に柔軟に対応できます。専用のVIDEO式非接触伸び計を用いれば、旧来の白黒ライン判定から形状すべてを非接触で計測、判定することも可能です。
 
上下方向に2.5mm/min、10mm/min、50mm/minで引っ張ります
 試験片は、両端を万能材料試験機の固定治具でしっかり掴みます。この状態で条件を設定して、スタートボタンを押したら試験スタートです。最初は2.5mm/minの速度で引っ張ります。
テンシロン万能材料試験機では、
重さにして2トンほどの力が加わった(力なので本来は力の単位「N(ニュートン)」で表示されます。)あたりで接着面が剥がれました 。
剥がれる前に曲がる金属板
剥がれるまでにかかる力に金属の試験片が耐えきれず曲がってしまいました。剥がれた面はこのようになっています。
接着面の根元がやや細くなる。
金属板は曲がるだけでなく、やや伸びて幅方向が狭くなってます。引っ張る速度を上げていくと、さらにこのような結果になりました。
 ある程度以上の速度で試験片を引っ張ると、接着面が剥がれるよりも早く試験片の金属が伸びてしまい、最終的には引きちぎれてしまいます。引きちぎれないにしても、試験片が伸びて接着面の根元が狭くなっています。
50mm/minでは試験片が引きちぎれる。
新型高強度接着剤は、溶接による金属の接合の代替としての使用も視野に入れて開発を進めています。製品の開発では万能材料試験機による性能の確認が欠かせません。このような試験を繰り返し、結果をフィードバックしていくことで完成に近づきます。
試験終了後は、今回の試験結果についてや、接着剤開発における試験方法について、意見交換が続きました。試験結果や今後の接着剤開発での試験について意見を交わしました
エー・アンド・デイの製品は、製造、開発現場で今後も活躍しつづけることでしょう。これからもお世話になります!
ライター:馬場吉成
工業製造業系ライター。機械設計や特許関係の仕事を長らくやっていましたが、なぜか今は工業や製造業関係の記事を専門とするライターに。企業紹介、製品紹介、技術解説など、製造業企業向けのコンテンツを各種書いています。料理したり、走ったりして書いた記事も多数あり、別人と思われることも。学生時代はプロボクサーもやっていました。100kmぐらいなら自分の足で走ります。http://by-w.info/

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